小雨の中で・・・


ベランダで、蝉が死んでいた。
短い夏の間、一生懸命鳴いて、一生懸命生きて、力尽きたのだろう。


そのままにしておくとゴミとともに、捨てられてしまうかもしれない。
それでは、いくらなんでも、せつないじゃないか。


せめて、土に返してやろうと、右手に蝉の死骸をそっとのせて、深夜の街をさまよった。
なかなか、適当な場所が見つからない。
というか、土がない!
いつのまにか、東京が、すっかり土のない街になってしまったことを、再確認する結果となった。


結局、しばらく歩いて、少し離れた、神社の境内の大きな気の根元に、埋葬させてもらうことにした。
石で土を掘り、そこに、蝉の死骸をそっと置き、上から土をかぶせた。
その横に、石を置いて、今年の夏、一生懸命生きた、無名の蝉の墓とした。


そして、その墓の前で、しばらく、手を合わせてから、その場を後にした。


今も、小雨が、突き刺さるように降り続いている。